青梅市千ヶ瀬町
私がピンセットを捜してその辺をウロウロ行ったり来たり
落ち葉をガサゴソしたりしていると、
その中間にあるベンチにマウンテンバイクで来た老人が座って、
長々と買ってきた物を飲み食いし始めた
『邪魔だなー』と想いつつカメラをとりに側を通りかかると、
「何か居ますか?」と、如何見ても胡乱な私に声を掛けてきた
「いや、ちょっと捜し物をしているのです」と応ずると
「そりゃー大変ですなー 高いんでしょうなくしたものは」と言ってきた
カメラを取って戻る序でに、「今日は自転車で散策ですか?」
と何気なく言うと、「貴方カメラマンでしょう」と興味ありげにいうので、
「いやまー」と一応適当に応えた
すると、「オーすごい、実は僕は脚本家の井上というんだけどね・・・・」
と長長と自己紹介をし始めた
なんでも自分は脚本家の他に某組織の会長をやっており、
更にどこぞの大学の名誉教授でもあり、
そして社会のあらゆる分野の実力者に多大な影響力を持っている
とのことだった
そして絵も書き現代短歌を嗜み釣りさえするといって、
自分が描いたという瓢箪と舟と川原と釣竿を配した
(今思うと)何とも胡散臭い絵を見せ始めた
題名は「積善の余慶」だそうだ
これをYahooのネットオークションなんかで競売にかけると、
6万ドルはするということだった
それで、「あんたは薄幸でどうも運を取り逃がしてるようだから
これを差し上げよう 但し人には内緒だよ
コピーが出回る心配があるから」と意味不明のことを言った
真に受けた私は「本当ですか!願ってもないことです」と色めきたった
「僕は君が気に入ったから上げるんだよ これも何かの縁だよ!
君がピンセットをなくさなかったらこの縁はなかったんだよ! わははは・・」
と空々しく何度も笑った
「これはまさしくピンセットの縁ですね」と私も微笑んだ
「僕は君みたいな若い人が成功することを望んでいる 君を助けたいんだよ
だから十(とお)でいいよ わははは・・」
「..はぁ?」私の表情は一瞬にして曇った
「今日は銀行が開いてるだろ! だから早く行って来な 10万でいいよ!
わははは・・」
私は相手の意図が読め、『なんてこった』と思ったが口には出さず
「では行って来ます」と力なく応えた
「何分で戻ってくる?」と訊くので「20分で!」というなり、
走っていって、そのまま自転車でとんずらした
自称井上さんは「ではそれまでこの辺を散策して置こう」といっていた
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